JESAコラム 第81回
バイオマスの有効利用
元 東京電機大学 西川尚男
バイオマス燃料の一つである木材を燃焼するとCO2を発生するが、成長過程ではCO2 を吸収するので、大気中のCO2の正味の濃度は変化しないことにより、カーボンニュートラルな燃料、 即ちCO2を排出しない燃料と見做されている。 表1に示すようにバイオマスは大きく間伐材、下水汚泥のような廃棄物系とサトウキビ、ユーカリ、ポプラのような栽培植物系に分類される。
表1 バイオマスの分類
ここでは代表的なバイオマスの利用例を3ケース紹介する。先ず廃棄物系の生ごみから電気を取り出す方法である。 これは図1に示すように、生ごみを粉砕機で1mm以下に微粉砕してスラリー状にしたものにメタン菌を入れてメタン発酵させると、 バイオガスが発生する。バイオガス中には硫化水素、アンモニア等の不純物が混じっているので、活性炭などで取り除いた後、従来の都市ガスと同じように、 燃料電池システムの改質器に入れて、水素を発生させ、その水素を利用して燃料電池で発電し、電気を取り出す。発生する電力量は生ごみ1トン当たり、 メタンガス発生量は200Nm3で、発生電力量は400kWhである。この生ごみのほかに家畜糞尿、 ビール工場の廃液、下水処理場の廃液(この場合の発生ガスを消化ガスという)からも電気を生み出すことができる。
図1 生ごみバイオガス化燃料電池発電設備の概念図
次に自動車の燃料として使用できるエタノールについて、ブラジルで行っているサトウキビからの製造例(図2)をもとに説明する。 先ずサトウキビを搾り器に入れて、粉砕し濃度の濃い液状にし、水を入れて希釈後、 酵母菌を加えて発酵させると濃度5~6%のエタノールが得られ、次いでその液体を95%の濃度になるまで蒸留し、 その後脱水することにより、濃度99.5%以上の無水エタノールが得られる。 水分が含まれると、エタノールとガソリンを混合して使用する時、相分離を起こす可能性があるため、水分の除去は極めて重要である。 日本ではこの相分離による信頼性低下の懸念からエタノールの利用は普及していない。 これまでサトウキビからエタノールを製造した後に残る残さを廃棄物扱いにしていたが、 この残さを効率的に分解する新しい酵素を大量に生産する技術が開発され、2021年頃に実用化される予定で、 結果としてブラジルのエタノールの生産量は現状の300億リットルから510億リットルへと増産されるものと予測されている。 この需要の増大は、ブラジルでは自動車の燃料(ガソリン)に20%のエタノールを混ぜることが法律で決められているためで、 国を挙げてこの国家戦略を遂行している。
図2 サトウキビからのエタノール製造プロセス
最後に最近増えている木質バイオマスを混焼した石炭火力発電所の例を紹介する。 東日本の震災後原子力プラントが全て停止し(現在8基が復帰した)、電力会社はその穴埋めを石炭火力で補っている。 この火力発電所から排出されるCO2を少しでも削減できるように、発電出力が落ちない範囲で混焼率3%の木質バイオマスを石炭に混ぜた大容量石炭火力(図3)が設置されている。 一例として最大級の石炭火力100万kWに適用した場合、年間で最大14万トンの木質ペレットが利用され、 石炭(年間500万トン)と混ぜて使うことで僅かではあるが23万トンのCO2量を削減できる(これはプラント全体の3%削減に相当する)。 一方CO2削減を進めるため、木質ペレットを直接燃焼させる発電プラント利用も既に始まっている。 燃料は木質ペレットやパームヤシの殻を直接使用するもので、発電出力は5万kWと比較的小さい容量の発電所に適用されている。
図3 木質バイオマス混焼発電設備(出典:相馬共同火力発電)
バイオマスは風力、太陽光と比較すると普及が遅れているが、地球温暖化の抑制には欠かせない技術であるため着実に適用していくことが重要である。