JESAコラム 第79回
バイナリー発電
東京電機大学 枡川重男
省エネルギーは全ての産業にとって重要課題である。 高エネルギー加速器研究機構の「未利用熱利用とバイナリー発電」によれば、 工場から排出される300℃未満の低温排熱は約100万TJで原油2600万kℓに相当し、 日本の原油輸入量年間約2億kℓの13%の膨大な量が捨てられている(1)。 さらに、経済産業省の「未利用熱エネルギーの革新的活用技術開発」によれば、 年間1兆kWhもの未利用熱エネルギーの大部分が排熱として大気に廃棄されている(2)。 別の見方をすればそれだけの電力が利用されずに捨てられている。
そこで、工場などの排熱から電力を作ろうとするバイナリー発電が盛んになっている。 バイナリー発電とは、沸点が低い媒体を加熱・蒸発させてその蒸気でタービンを回して発電する。 タービンを回した蒸気は、冷却して液体に戻す。液体に戻れば再び過熱して蒸気を発生させる。 このように、バイナリー発電で用いる媒体は蒸発と液化を繰り返しながら循環している。ペンタン(C5H12、沸点約86℃)は代表的な媒体である。
図1はKOBELCOが製品化しているマイクロバイナリー発電システムの一例である。発電の定格出力は72kWである。 媒体として、有機媒体HFC245faを採用している。HFC245faはオゾン破壊係数(ODP)がゼロで、環境負荷も少ない不燃性の不活性ガスである。 図2は温泉を利用した地熱発電の例である(3)。
図3は神戸製鋼が開発した船舶用のバイナリー発電システムである。2016年12月の実船搭載での海上試験を行い、2019年から販売を開始する計画となっている。 船舶用エンジンの過給機からの排熱を利用している。エンジン出力7500kW時に、125kWを発電する。 これは船舶の発電機における使用燃料の約20%~25%に相当する(4)。
バイナリー発電はこれまで捨てられていた低温排熱を回収する有効な手段である。 私たちの周りに排熱が回収されずに運転している機器はなか、見ていただきたい。 もし、そのような機器があれば、バイナリー発電を検討してみてはどうか。 付加価値の高いヒット商品が生まれるかもしれない。
図1.発電システムフロー
図2.温泉を利用した地熱発電
図3.船用バイナリー発電システム
参考資料(参考資料は全て2018,05.21参照)
- https://www2.kek.jp/engineer/tsukuba/seminar/2014/file/report_outreach_Xenesys.pdf
- http://www.nedo.go.jp/content/100763601.pdf
- http://www.kobelco.co.jp/products/standard_compressors/microbinary/systemflow.html
- http://www.kobelco.co.jp/releases/1196608_15541.html