JESAコラム 第67回
エネルギーハーベストの時代がやってくる
東京電機大学 枡川重男
前回のコラムでエネルギーハーベストの話をしました。エネルギーハーベストに関しては様々な予測があります。例えば,エネルギーハーベスチングの関連機器の市場規模は,2010年の6億500万ドルから2020年には44億ドルまで広がる」(英IDTechEx社)とあるように,エネルギーハーベストは大きな市場になると予想されている。地球温暖化の影響による災害が数多く報道され,省エネルギーが求められる現状から見れば,エネルギーハーベストに研究者や企業が集まり,市場を開拓するのは必然かもしれない。今回はエネルギーハーベストの開発事例を紹介する。
どのようなエネルギーを利用するのか
エネルギーハーベストでは次のようなエネルギーを利用する。
- 他の通信に用いられている電磁波
- 構造物や車両の振動
- 室内照明
- 装置が発生する熱
- 配管を流れる水の運動エネルギーや位置エネルギー
等がある。具体例としては次のようなものがある。
他の通信に用いられている電磁波
ワシントン大学で研究されている「Ambient
Backscatter」は,テレビやラジオなどの環境中にある電波から電力を回収する。送信メッセージは周囲のWi-fi信号を選択的に反射することで符号化し,バッテリーなしでのデバイス間通信を実現している(日経サイエンス2015年2月号参照)。
詳しくはワシントン大学のホームページを参照。
http://abc.cs.washington.edu/
Ambient Backscatter
EnOcean社はドイツのシーメンスからスピンオフした企業で,無電源のワイヤレススイッチを製造している。EnOceanのスイッチは,指で押したときのエネルギーで発電して,無線で信号を送るもの。配線が必要ないので,どこにでも取り付けられるのが特徴である。詳しくは次のHPを参照。
https://ermine.co.jp/technicalinfo/enocean/
ワイヤレススイッチ
https://www.enocean.com/jp/enocean_modules_928mhz/
構造物や車両の振動
マイクロジェンシステムズ社は,バーモント大学からスピンアウトして設立され,ピエゾ型(圧電)振動発電によるエネルギーハーベスト製品を提供している。例えば,「ボルト」は500円玉サイズの発電機であり,50/60Hz,100~1500Hzのハーモニクスに対応した小型のエネルギーハーベスト製品であるため,様々な用途に利用が検討されている。詳しくは次のHPを参照。
https://www.cornestech.co.jp/tech/products/maker/microgen-systems/
BOLT
ピエゾMEMS振動発電素子
MITの学生がショックアブソーバーの油圧を利用して発電する「Genshock」を開発。具体的には,サスペンション内の油を発電機タービンに通して発電する。車の燃費が10%向上するという。また,大型トラックに6台Genshhockを6台取り付けると,平均6kW発電するとしている。学生たちはこれを実現するために,Levant
Power社を立ち上げた。詳しくは次のHPを参照。
https://www.technologyreview.com/s/413102/a-bumpy-road-to-efficiency/
ショックアブソーバ(Genshock)
装置が発生する熱
熱電発電素子を用いてプロジェクタの廃熱を電気に変換して,プロジェクタの冷却ファンの駆動用電力として利用する。熱電発電素子はビスマスーテルル系熱電材料を用いており,300℃以下の低温領域で利用可能となっている。開発した熱電発電モジュールは開放電圧8.18V,0.6A,1.24Wとなっている。
詳しくは次のHPを参照。
http://www.enaa.or.jp/GEC/info/eve/fourm/f-10.pdf
今回はエネルギーハーベストの例を取り上げた。2017年5月10日-11日,ドイツのベルリンでIDTechEx主催のEnergy Harvesting Europeが開催されている。ユーザー,企業,研究者の意見交流,多くの企業も出展している。日本ではなかなかこの分野が伸びない。市場の規模も一因と考えられる。しかし,海外市場は広がっている。日本でもこのような会議が数多く開催されれば,この分野も海外に向けて飛躍的にのびるのではないだろうか。