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JESAコラム 第68回


再生可能エネルギー増大対策としての揚水発電装置の活用例

元東京電機大学教授 西川尚男

再生可能エネルギーの一つである太陽光発電システムの導入量が、 国の計画では2020年に2800万kW、2030年では5300万kWであったが、2016年6月時点で、既に3000万kWが接続され、 一方累積認定出力が8000万kWになろうとしている。今後太陽光発電システムが大量に電力系統に導入されていった場合でも、 電力系統の運用が可能でなければならない。以下に国内で太陽光電力の導入量が多い九州電力管内の例をもとに、 どのような電力運用が行われているかを紹介する。

我が国の1年間にわたる電力需要の時間的変化(日負荷曲線)を図1に示す。 電力需要の最大は真夏に発生し、一方最少は春・秋の休日に見られる。また九州電力管内の2013年度の電力需要の推移を図2に示す。 ほぼ全国と同じ傾向を示している。電力需要が少ないほど火力発電による調整範囲が制約されるため、電力の運用が困難となる。 以上から春の電力需要が少なく、系統に供給される太陽光発電量の大きい時の実系統で実施された電力運用例を図3に示す。

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図1 各季節の日負荷曲線
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図2 九州電力の電力需要(2013年度)
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図3 九州電力管内における需要と供給のバランス例(2017年4月30日)

電力需要の最大が約800万kWに対し、太陽光の電気出力の最大が565万kWで、 火力発電による電力調整を最大限行ったにもかかわらず(16時以降の火力発電所の立ち上げが1時間当たり 100万kW以上と急峻になっており、安定運用が厳しくなっていた)、電力需要に対し約300万kWの余剰電力が発生する可能性があった。 この解決策として九州電力は揚水発電システムを活用し、余剰電力を揚水発電の動力用に使用し、 ダム下流の貯水をくみ上げて上流にあるダム内の貯水量を増やし、太陽光発電出力の減少時に、揚水動力を停止し、 揚水発電に切り替えて電力需要に対応させた結果、九州電力管内のこの日の電力需要に対し、 安定した電力供給が可能となった例である。

もともと揚水発電システムは夜間の余剰電力を利用して、揚水動力を運転させて貯水し、昼間の需要増大時に揚水発電で発電して電力を有効に活用するシステムであった。ところが地球温暖化抑制のため、太陽光発電の導入量が急激に増えたことから、結果として余剰電力問題が発生し、余剰分に対し、揚水発電システム(今回採用された揚水―発電の総合発電効率は約70%である)を活用することにより、即ち一種の電力貯蔵として活用することにより、問題解決を図った例である。

今後太陽光発電電力量が着実に増大していくためその対策として、揚水発電だけでは限界にきているため、新たな電力貯蔵装置例えば既に実用化されているNAS蓄電池の設置が重要である。合わせて「別の電力会社との連携を強化し電力の融通を図る」、「特に軽負荷期では、余剰電力を使ってもらうような電力需要の創出(例えば家庭電力需要ではヒートポンプによる貯湯槽への蓄熱、電気自動車の蓄電池への充電等)」、「最悪の場合は太陽光発電出力の一時出力低下」などの諸施策展開が必要となる。

引用文献:電学誌、137巻7号、2017年、p404~409.横山明彦「未来の電気エネルギーに向けて電気学会の果たす役割」


2017/12/08