JESAコラム 第61回
水素社会の到来に備える
19世紀の石炭、20世紀は石油、そして21世紀のエネルギーは水素だといわれる。水素の時代は本当にやってくるのか。
水を電気分解することによって水素ができる。その逆に水素を燃焼(酸化)すると熱と電気を造ることができる。電気は水素に姿を変え、水素はまた電気にも姿を変える。水素があれば、いつでも、どこでも、誰でもが、必要なときに必要なだけエネルギーを造り、貯めておくことができる。そう考えると、水素は究極の再生可能エネルギーだといえるのかも知れない。
既に電気自動車は実用化され、車に水素を搭載して電気を造りながら走る燃料電池車も走り始めている。国のプロジェクトにより水素ステーションの整備も始まっている。鉄道は既に電化されており、動力エネルギーは電気と水素が主流になる方向が見え始めている。
水素は化合物の形で自然界でも豊富に存在しているが、エネルギーとして水素を利用するためには人為的に水素を取り出す必要がある。代表的なものは水である。前述のように電気分解することで水素を取り出すことができる。また、炭化水素である化石燃料からも比較的容易に水素を取り出すことができる。製鉄所や化学工場では副生水素が発生するなど、既に水素の製造技術は確立されているとも考えられ、低コスト化だけが残された課題だということもできる。
その意味で、注目されているのが再生可能エネルギーの余剰電力を水素に変える電解水素である。特に出力変動の大きいことが問題視される風力発電や太陽光発電の余剰電力を水素に転換して、いつでも利用可能なエネルギーとする研究開発競争が始まっている。発電してしまったものの系統制約などの問題で、捨てることを余儀なくされている余剰電力を水素に変えることで、極めて低コストの水素が製造できることになる。また、CO2フリーの再エネ電力をCO2フリーの水素に転換する手段だということもできる。
現在、太陽光発電や風力発電は既に電力系統の制御能力を超えはじめ、発電しても系統に受け入れてもらえない事例が常態化し、今後の再エネ活用の大きな障害になってきている。今後、さらにFITによる買取義務期間が満了する再エネ電源の大量発生が、この問題をさらに深刻化することが懸念されているが、こうした買取満了電源の新たな活用策としても、電解水素の活用が最も現実的な解決手段として考えられる。
このように、水素は、再生可能で手軽に利用出来ること、低炭素であることなど、まさに未来型の再生可能エネルギーとなる可能性を大いに秘めているといえるもので、さらに付け加えると、豊富に存在する国内資源を利用して工業的に創り出すことができるという意味で、エネルギー自給率の向上に貢献できるだけでなく、将来的には資源のない国といわれた日本をエネルギー輸出国に変える可能性を大いに秘めている新エネルギーなのだと考えることもできる。水素社会の到来はそう遠くはないのではないかと思われる。
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