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JESAコラム 第47回


再生可能エネルギーが大量に導入された時の電力系統の変化

東京電機大学 西川尚男

今世紀の後半(2050年頃)には、CO2を発生しない太陽光、風力発電といった再生可能エネルギーによる発電量が図1に示されるように世界全体で、現在の世界の電力使用量と同等の20兆kWhに達するものと予測されている。
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図1. IEAによる2050年までの世界の再生可能エネルギー導入量の将来

電力は発生電力と消費電力が常に一致する必要があることから、電力会社は電力需要を的確に予測しながら、発電電力量を調整し、安定な電力を需要家へ届けている。

電力需要の具体例として、我が国の季節別電力需要の変化を図2に示す。これは日負荷曲線と呼ばれ、夏の暑いときは、一日のピークが2億kWを超えているが、中間期(春、秋)の休日では、1.2億kWまで低減していること、一方、夜間の電力需要は季節に関係せず、ほぼ1億kW程度の電力調整能力限界近くで運転していることを示しており、電力会社はこのような長年蓄えた運転実績データを基に、時々刻々変化する電力需要に対し図3に示す各種電源より電力を供給している。
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図2. 各季節の日負荷曲線
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図3. 日負荷曲線と発電構成

今後地球温暖化抑制が世界的に進んでいく中で、我が国も再生可能エネルギーが電力系統に大量に導入されていく反面、化石燃料による電力供給量は徐々に減少していく傾向にあることから、その時どのような電力系統の変化が予測されるかを以下に記述する。

再生可能エネルギー電源(太陽、風力に限る)が大量に増えていった状態で、天候が変動したり、電力需要が変動した場合、再生可能エネルギー電源は従来のような電力調整能力を持っていないため、電力系統では過剰電力あるいは不足電力状態となり、電力供給と需要にアンバランスが生じやすいシステムとなっていく。

例えば図2に示すように春、秋の休日時の電力ピークが、真夏の電力ピーク時と比べて電力需要が大幅に低減しているのに対し、太陽光発電による電力供給量は真夏時と春・秋時とでは変わらないことから、春・秋の太陽光発電からの電力供給量が需要量を超える可能性がある事、また風力発電の場合、需要の少ない深夜から明け方にかけて、強い風が吹くと風力発電からの電力量が需要量を超えることが懸念される。

このような事態を避ける対策として

  1. 電力供給側の対応として大容量蓄電池を電力系統内に多量に設置し、揚水発電システムのように適時電力の貯蔵・放電を行うこと、一方、需要側は例えば一般家庭やオフィスビルの場合、過剰電力供給時には電気自動車の蓄電池を充電したり、ヒートポンプを利用して氷蓄熱システムを作動する、一方、供給電力不足時には蓄電池に貯蔵した電力を系統側へ逆に供給したり、使用していた冷暖房の電力を節約するといった、IT技術を駆使したスマートグリッド化の推進により電力供給と需要のアンバランスを解消するシステムを構築していくこと。
  2. さらに再生可能エネルギー量が増大していった段階では、(1)のようなシステムに加えて余剰再生可能エネルギー電源で水の電気分解を余剰再生可能エネルギー電源で水の電気分解を行い、水素を製造し、石油、石炭、天然ガスと同じように、長期にわたって貯蔵し、従来の発電システムのように、電力調整能力を付加した水素を燃料とする図4に示すような新しい発電システムを徐々に構築していくことである。なお水素製造は国内の余剰電力で実施することはもとより、風況の良い海外で大量に水素を製造し、液体水素の状態で船で国内へ輸送し、貯蔵するシステムが考えられる。

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図4. 新しい発電システム(電力ネットワークと水素ネットワークの共存)

地球温暖化抑制には再生可能エネルギーの活用が極めて重要である。再生可能エネルギーからの電力を直接利用することが電気効率の面から考えて望ましい方法であるが、反面需要に対する電力調整機能がないため、従来の電力供給システムのような安定した電力を供給するシステムに変えていくこと、例えば上記の電力貯蔵・IT技術を駆使したスマートグリッド化あるいは水素製造/発電といった電力調整能力を有する水素を燃料とした新しい発電システムの構築である。これらは時間と多大な投資を要するため、しっかりしたビジョンを描きながら着実に前進させていくことが必要である。


2017/01/11