JESAコラム 第90回
二酸化炭素の回収・貯留技術について
元東京電機大学 西川尚男
日本の長期エネルギー需給見通しについて、経済産業省が主導して「第5次エネルギー基本計画」を作成し、それによると2030年の日本の発電電力構成として、原子力発電が20~22%、再生可能エネルギー(水力を含む)発電が22~24%、 火力発電が残り56%と見込んでいる。一方更に進んで2050年までには2013年度比で温室効果ガスを80%削減することを目指している。これは図1に示すように2013年度のCO2ガス排出量と比べ、約11億トンのCO2ガス排出量の削減を意味し、 極めて大きな値である。そのためにはゼロエミッション電源である原子力発電及び再生可能エネルギー発電(太陽光、風力)に加えて、火力発電時に発生するCO2ガスを大気へ放出させるのではなく、回収して、CO2ガスの濃度を高め、 高濃度にしたCO2ガスを海底にある帯水層に貯蔵する、即ちCO2ガスの回収・貯留技術を活用して地球温暖化抑制を図るものである。以下にその技術を紹介する。
図1. 日本の温室効果ガス排出量実績と削減目安
(1) CO2回収技術
火力発電所の燃焼排ガスからCO2ガスを分離・回収する化学吸収法を図2に示す。吸収塔と再生塔から構成され、吸収塔では下部からCO2濃度が7~25%の火力プラント燃焼排ガスを流入し、上部からアルカリ性のアミン溶液を散布すると、
この溶液に吸収されたCO2を含んだ溶液が吸収塔の下部に溜まり、それを再生塔へ導く。アミン溶液中のアミン基とCO2とは温度40℃から50℃でよく結合するため、吸収塔の運転温度はこの温度に設定し、
一方再生塔では吸収液を110~140℃に加熱することにより、CO2が分離されて、上部から高濃度のCO2(約99%)が回収される。尚回収された後の溶液は温度を下げて吸収塔へ導き再度使用する。
図2. 科学吸収法によるCO2の回収
(2) 地中貯留方法
図3に示された高濃度のCO2ガスを海底の深いところにある帯水層に貯留する。この層は砂岩や炭酸塩等の堆積岩で構成されており、孔隙が多く内部に塩水が保持されているため多量のCO2ガスを貯留することが可能となる。
但しCO2を安定に保持するためには帯水層の上にキャップロックという不透水槽の存在が必要である。これは後述するように、超臨界状態のCO2ガスは水より軽いため、上方へ移動し、大気へ放出される懸念があるためである。
図3. 貯留メカニズム
次にCO2を貯留する深度とCO2ガスに及ぼす影響について紹介する。図4は深度とCO2ガスの体積及び密度との関係を示す。深度がゼロから800m位の所では、深度の増大とともにCO2ガスの体積は徐々に低下し、密度は増大していく。 一方海底の深度が1.5kmを越すと体積と密度はほぼ一定値に収束している。これは図5に示すCO2ガスの状態図から説明できる。深度800mを越すとCO2ガスは圧力7Mpa、温度31℃以上となり、結果としてCO2ガスは臨界状態となり、 液体と気体の区別がつかなくなり体積は極めて小さく、気体のように流動しやすい状態となる。この結果狭い隙間までCO2ガスは侵入するので、CO2ガスの貯蔵効率が向上する。 このようなことから現在海底の深さとして800~3000mのところに高濃度のCO2ガスを貯留することが検討されている。
図4.深度に対するCO2密度の変化
図5.CO2の状態図
(3) 苫小牧での実証試験
国レベルでのCO2回収・貯留技術(CCS: Carbon Dioxide Capture and Storage)を確立し、実用化していくため、全国115カ所の候補地から、2012年に北海道の苫小牧が選定され、日本初のCCS実証プロジェクトが開始された。
苫小牧には、CO2ガスを貯留するために適した地層があり、また地層に関するデータも豊富であることとあわせてCO2ガスを多量に排出する発電所及び工場があることによる。実証試験のスケジュールを図6に示す。
このプロジェクトは10万トン/年の規模でCO2の分離・回収・貯留し、地下に貯留したCO2ガスの挙動を監視する。既に2016年度に圧入を開始し、2020年まで監視を継続し、実用化を目指す計画である。
図6.苫小牧CCS実証試験全体スケジュール
なお世界全体のCO2ガスを貯留する能力は約17000億トンで、一方我が国の状態は帯水層の能力は1500億トンである。地球温暖化抑制の一つの手段として苫小牧のCCS実証プロジェクトの成果を期待していきたい。
以上
参考文献
1.(財)地球環境産業技術研究機構編、「CO2貯留テクノロジー」 工業調査会 2006
2.燃料電池 Vol.18 NO.1 2018、「二酸化炭素回収・貯留と苫小牧CCS実証試験について」
2019/09/09