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JESAコラム 第84回


水電解による水素製造(その1―アルカリ水電解)

元東京電機大学 西川尚男

再生可能エネルギー電源が電力系統へ大量に導入されると、電力系統では過剰電力供給状態となる場合が多くなり、 それに対し「蓄電池による電力貯蔵」、「揚水発電による上流の貯水池への揚水」、 「電力貯蔵の代替えとなる水電解による水素製造と貯蔵」等の対策が必要とされる。 今回は将来期待される余剰再生可能エネルギーを利用した「水電解による水素製造方法」を紹介する。 現在研究されている水電解法は「アルカリ水電解法」、「固体高分子形水電解法」、「高温水蒸気電解法」があり、その内容を2回に分けて紹介する。

アルカリ水電解法は、20世紀の初頭に水力発電を利用して水電解を行い、水素を製造し、その水素でアンモニアを、 最終的に硫安、硝安といった肥料を生産していた。このように水電解による水素製造方法は既に工業的に確立された技術といえる。

近年は再生可能エネルギー電源で、大量に水素を製造する要求が高まり、 水電解による水素製造の高効率化及び再生可能エネルギー電源の変動に対する水素製造量の追従性の研究が行われている。 以下その内容を説明する。

アルカリ水電解装置の構成を図1に示す。主に電極、隔壁及び電解液で構成される。 ここで電極は両極ともニッケルメッキした鉄電極あるいはニッケル系材料が、隔壁は両極で発生する水素と酸素との混合を防止し、 あわせてイオン電導をつかさどるもので、以前はアスベストが使用されていたが、 人体への影響を考慮して最近はポリエステル系の多孔質膜、フッ素膜、芳香族膜等、 そして電解液としてアルカリ電解液、例えば水酸化カリウム(KOH)水溶液及び水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液が利用できるが、 イオン電導性の面で濃度20~25%の水酸化カリウム水溶液(KOH)が広く利用されている。

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図1 アルカリ水電解の構成図(ギャップあり)

水素製造の反応は外部から電源を電極へ図1のように加え、陰極側へ水溶液を供給すると、水電解の反応は(1)、(2)式のように、 陰極に供給された水(2H2O)と外部電源からやって来る電子(2e-)とが 電極上で結合して水素(H2)と水酸化イオン(2OH-)が生成され、 生成された水酸化イオンは陽極側へ移動し、陽極電極上で水(H2O)と酸素(1/2・O2)と電子(2 e-)が生成される。このようにして水素が陰極側に生成される。

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ここでは、開発課題の一つである「電解効率の向上」と「大容量化の検討」について紹介する。 効率向上策については、図2に示すように、電極を隔壁に直接接触させる「ゼロギャップ」構造が検討された。 この方式は電極を隔壁へ直接接触させているため、電解液部の電圧損失を大幅に低減できる。 結果として図3に示すように従来方式の特性が電流密度0.2A/cm2で、電解電圧が1.8Vであったのに対し、 今回の開発では電流密度0.2A/cm2に対し、電解電圧が1.6Vと小さくなっている。この結果水電解効率は従来品の82%から92%へと大きく向上させることができた。 この特性を利用すると従来の特性0.2A/cm2 - 1.8Vを0.6A/cm2-1.8V(電流密度を増やしても電解電圧が従来品の特性と同じ)にできることから、 結果を要約すると、従来の電流密度で運転する時は印加電圧を下げることができることによる10%の効率向上を、また効率を従来通りとすると、 従来の3倍の電流を、従って3倍の水素を発生させることが可能となる。

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図2 アルカリ水電解の構成図(ギャップゼロ)
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図3 アルカリ水電解のシステムの性能

次に大容量化の実情を紹介する。試作品は電極面積3m2、印加電流最大15kA、積層した数セルで、 最大25Nm3/hの水素が発生できた。図4に示す装置で長時間寿命試験を実施し、 7000時間にわたり運転した結果、電流密度0.6A/cm2で電解電圧が1.8V以下であったことから耐久性については極めて安定した特性を示していることが確認できた。 尚実用化に当たってはこのセルを100~200セル積層して、1ユニット2000Nm3/h、10MW(1万kW)クラスの世界最大水電解装置を製作することが可能との目途が得られている。

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図4 大型水電解装置による長時間試験

次に再生可能エネルギー電源の変動による水素製造への影響が検討された。 太陽光発電は自然現象に左右されるため、電源の変動は避けられない。 このため頻繁に繰り返し変動が発生したり、その変動幅の大きい条件が考えられる。 そのような状態でも安定して水素を製造する必要がある。その状況を検証するため、 待機状態から瞬時に定格電流値まで変化させた場合のセル電圧と水素発生量の変化の関係を調査した。 その結果を図5に示すように、水素製造は良好に追随していた。

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これまで示した「アルカリ水電解法」は他の水電解法と比べ、大型化に適しており、また貴金属等特殊な金属の使用がないため、低コストの水電解システムが期待できる。

引用文献 FCDIC「燃料電池」 Vol,16 No.4,2017 (P11~16、及びP26~31)


2018/10/12