JESAコラム 第70回
中国でEV車が大きく躍進する
元東京電機大学 西川尚男
中国政府は地球温暖化抑制のため、従来のガソリン車からEV車へシフトさせることを明確に表明している。図1に示すように、2015年からEV車の販売を急激に伸ばし、2016年度の世界全体のEV販売台数75万台に対し、中国は34万台、米国は16万台、次いでノルウエイ、イギリスと続いている。また将来の中国における自動車販売計画を図2に示す。2025年にはEV車を700万台へ拡大させる計画である。これは中国で生産される自動車数(3500万台)に対し、約20%に相当する。あわせて世界の自動車販売数の予測はJESAコラム第65回で示したように、2025年にはEV車が900万台となり、販売される自動車数(1.1億台)の約8%に相当する。これから中国はいかにEV車を拡大させるようにしているかが分かる。
図1 世界のEV社販売台数の推移
図2 中国におけるガソリン車とEV車の販売台数と計画
もともと中国政府は従来のガソリン車を製造しても海外の有力メーカーに肩を並べることは困難と考えているようで、部品点数がガソリン車の約半分で済むEV車に特下し、そのキー技術である電池の開発に注力し、国が巨額の投資支援を行ってきた。その結果競争力のある車載用リチウムイオン電池が開発され、2016年に中国は6割強のシエアを、日本は2割強で、韓国が1割弱となり、中國メーカーの上位5社が世界を独占する状況となった。中国はEV車拡大のため、国内の自動車メーカーに対し、製造・販売する乗用車の台数のうち一定比率でEV車を製造・販売するよう義務付けるという新しい環境規制を導入した。具体的にはその比率が2019年が10%、2020年が12%としている。これを受けトヨタ自動車は中国が世界最大のEV車市場になるだろうと判断し、中国メーカー2社(第1汽車と広州汽車)が開発したEV車をトヨタ自動車と中国メーカーとの合弁会社で生産することとし、2019年に販売を開始する予定である。このように中国のEV車が大きく躍進する施策が着々と進められている。
次に地球温暖化抑制に極めて重要なガソリン車とEV車のkm当たりの排出CO2ガス量について検討してみる。図3に示すように、ガソリン車のCO2排出量は(140~196g-CO2/km)で、ハイブリッド車は(90~123g-CO2/km)である。一方EV車は運転中は CO2を排出しないが、電力系統を使って充電する際に、どのような電源を用いて充電するかで、EV車のCO2排出量が決まる。例えば再生可能エネルギー電源の場合は(0g-CO2/km)、天然ガス発電の場合は(50g-CO2/km)、石炭火力発電の場合は(111g-CO2/km) となる。電力系統では火力発電、原子力発電、再生可能エネルギー電源の組み合わせで電力を供給するため、各国でkWh当たりのCO2排出量は 図4のように異なる。日本の場合1990年は震災前の電源構成であったことから、原子力発電が多数接続されていることによりCO2排出量は452g/KWhと小さく 、結果としてフランスに次いで世界第2位の少ないCO2排出量であったが、2014年では震災後のため、原子力発電からの供給がなく、その分石炭火力で対応していたためCO2排出量が566g/kWhに増大した。 一方中国はもともと石炭火力の比率が大きいため1990年は900g/kWh台で、2014年は石炭火力の割合を低下させ、再生可能エネルギーを増大させたことにより650g/kWh台となった。フランスは原子力発電の比率が世界で最も多いため、結果として排出量は世界で最も少ない値を示した。また1990年の米国、イギリス、ドイツの値は600~700g/kWhで、2014年では再生可能エネルギーの増大により400g/kWhへと低下していた。当然のことながらEV車の特徴を最大限に発揮させるためには、電力系統へ接続される電源、即ち石炭火力発電を極力減らし、再生可能エネルギーおよび原子力発電を多く取り入れることが重要である。
図3 ガソリン車、HV車、EV車の走行距離当たりのCO2排出量
図4 発電1kWhあたりのCO2排出量
最後に環境規制について紹介する。欧州連合(EU)は域内で販売する自動車に対し、2030年のCO2排出量を2021年の規制値に対し、3割削減するとしている。過去の結果を含めた規制値を表1に示す。この規制をクリア出来ないメーカーには罰金が科せられる。表1は欧州の基準案であるが、いずれ国際的な協議が行われて、最終的に世界的な基準値が示されるであろう。このようなEU案通りの厳しい規制値が適用されるとEV車は増大していくであろうが、ガソリン車は規制値をクリヤーできず、大きな割合を占めるガソリン車をどの時点で販売禁止とするかが今後議論されるであろう。既にノルウエイは規制を先取りして、2025年までにガソリン・デイゼル車の販売を禁止するとしている。フランス、英国は2040年以降ガソリン車、デイゼル車の国内での販売はしないと声明している。またスウエーデンのボルボ社は2019年以降、またイギリスのジャガー・ランド・ローバー社は2020年以降、EV車に限定して販売すると表明している。
表1 EUの環境規制値
このような状況の中で、大気汚染に苦しみ、世界第1位のCO2排出国、中国は地球温暖化の抑制に向けて大きなビジネスチャンスととらえEV車を大きく躍進させようとしている。
引用文献:日本経済新聞記事及び電力中央研究所資料