JESAコラム 第64回
電池不要の世界がやってくる
東京電機大学 枡川重男
エネルギーハーベスト
人や橋梁(きょうりょう)の振動,車のサスペンションの振動,照明の光,焼却炉の排熱,放送の電波など, 日常生活の中で捨てられてしまうような小さなエネルギーを電気エネルギーとして取り出して, 電子回路を動かそうとするエネルギーハーベストの技術が注目されている。
エネルギーハーベストは今に始まったものではない。鉱石ラジオもエネルギーハーベストである。 風力発電や太陽光発電もその1つと言えよう。しかし,今注目されているエネルギーハーベストは,表に示すような(1), 電力の小さなμWやmW級のエネルギーを効率よく取り出す発電技術である。
エネルギー源 | 例 | 単位面積当たりのエネルギー量 |
---|---|---|
振動 | 歩行,モータ,橋梁 | 10-3~10-4W/cm2 |
光 | 照明,室内日光 | 10-4W/cm2 |
熱 | 体温,車の排熱 | 10-5W/cm2 |
電磁波 | 放送波,無線LANの電波 | 10-6W/cm2 |
エネルギーハーベストの効果
エネルギーハーベストの用途のひとつにモバイル機器などの電源がある。 電卓や腕時計は太陽電池や体温さらに腕の動きなどで充電するなど電池のない製品が普及している。 スマートフォンで,「電池が切れる」と思いながら,付属のACアダプタを探した経験はないだろうか。 電池がいらなければ楽なのにとつぶやいたこともあるはず。
電源インフラの乏しいアフリカなどの途上国では,携帯電話の普及と共に,電源としての太陽電池の需要が高まっている。 煮炊きするカマドの熱で発電する発電鍋(鍋の底に熱発電を張り付けている)も登場している。 LEDと組み合わせることで夜が長くなり,出生率も低下したとの報告もある。
発電鍋Powerpot10(POWER PRACTICAL Inc.)
さらに,あらゆる製品がネットでつながる「モノのインターネット」が急速に整備されているのも, エネルギーハーベストにとって追い風となっている。2015年GEは「インダストリアル・インターネット構想」を打ち出した。 あらゆる製品にセンサーを埋め込みデータを集めてビックデータとして解析することで生産性向上を目指すとしている。 その効果は「1%の節電化で年間200億ドル(2兆4,000億円)の利益を生み出す」と試算している(2)。
ただし,ものをネットにつなげるには,センサーとその電源が必要となる。 今では,表のようなわずかなエネルギーでも十分に動作する電源用IC(例えばADP5090)が開発され, 1次電池の交換や配線さらにメンテナンスも不要となっている(3)。
また,温度,湿度,照明などのセンサーを室内に張り巡らせば,空調や照明もコンピュータでこまめに制御できる。 もし日本中で制御すれば,削減される電力は大きなものとなり省エネルギーに貢献できる。
日本では
欧米ではGEやABBが積極的に取り組んでいる。また,政府の支援もある。環境意識の高いヨーロッパでは, エネルギーハーベストを利用すれば,電池の廃棄がなくなるとのことから,研究開発も進められている。
一方,日本は欧米より遅れているといわれているが,エネルギーハーベスティングコンソーシアムが設立され, エネルギーハーベストの開発に取り組んでいる。また,各社が共同で開発を行い,成果も現れている。
エネルギーハーベストは用途に合わせた細かな要素の組み合わせが求められる。 これは日本の企業が得意とする分野である。今後,エネルギーハーベストを社会のインフラとして根付かせれば, 「環境立国ニッポン」が広まり,資源の有効利用やCO2の削減に貢献できるのではないか。
参考文献
- Roundy, S. et.al,"A study of low level vibrations as a power source for wireless sensor nodes," Computer Comunicatins. 26. Issue 11, pp1131-1144, jul. 2003
- http://www.hitachi-solutions.co.jp/belinda/sp/special/column15/page03.html
- http://www.analog.com/media/en/technical-documentation/data-sheets/ADP5090.pdf