JESAコラム 第54回
家庭用燃料電池の本格普及が始まる
東京電機大学 西川尚男
カタログなどで〝エネファーム″という名称で家庭用燃料電池のことが紹介されている。 燃料電池は1960年代にアメリカのスペースシャトルに、水素と酸素から電気を作る装置として搭載されたもので、 それから半世紀以上たった現在、幾多の研究開発を経てやっと家庭用燃料電池として商品化に成功し、徐々に一般家庭で使用されるようになってきた。
色々な種類の燃料電池がある中で、家庭用燃料電池には比較的運転温度の低い固体高分子形燃料電池(PEFCと呼ばれる)が使用されている。 その電池の構成は図1に示されるように主に触媒を塗布した電極、イオンの移動に使われる固体高分子膜、そしてガスを流すセパレータと電池を冷やす冷却板から成り立っている。 アノード極に水素を、カソード極に酸素(実際は空気を用いる)を供すると、電極間に直流の電圧が発生し、 このようなセルを数多く直列に接続することにより、高い電圧を得ることができ、その後直流を交流に変換して、家庭用電源として使用している。
図1 電池(セル)の構成
家庭で使用されている燃料電池の例を図2に示す。大きくは燃料電池発電ユニットとお湯を蓄える貯湯ユニットから構成されている。 燃料としての水素供給はまだインフラ設備として普及していないため、都市ガスを発電ユニットへ供給し、そこで水素を作り、 図1の電池に供給し発電に供している。電池内では水素と酸素が化学反応を起こし、電気を発生するとともに熱も発生するので、 その熱を利用してお湯を作り、貯湯ユニットに蓄えて風呂、炊事用に利用している。
図2 燃料電池外観(東芝燃料電池システムKKのパンフレットより)
エネルギー効率について、図3に示されるように家庭用燃料電池は発電効率が39%程度、熱利用効率が56%程度、 従って総合効率95%程度のエネルギー利用効率となるのに対し、 従来の石油、石炭、天然ガス利用による電力会社が運用する火力発電システムでは、 発電所で利用されない排熱と電力を送る時の送電ロス等により、 一般家庭に供給されるまでのエネルギー利用効率は日本全体の平均で約40%となる。 従って従来の発電システムと比べ、家庭用燃料電池のエネルギー利用効率は同じ供給熱量当たり2倍以上となり、CO2排出の低減に大きく貢献している。
図3 エネルギー効率の比較
なお家庭用燃料電池は上記の固体高分子形燃料電池のほかに、固体酸化物形燃料電池(SOFCと呼ばれる)が開発されている。 この電池は高温(700℃以上)で運転するため、電池の排熱を水素製造に直接利用できるため、発電効率は52%程度、熱効率40%程度である。 PEFCとSOFCの発電効率と熱利用効率の違いからPEFCは熱主電従(熱需要主体)、SOFCは電主熱従(電気需要主体)の運転を行っている。
いずれの家庭用燃料電池も″エネファーム″と呼ばれ、これらは農作物のようにエネルギーを家庭で作るという意味で使われている。 地球温暖化抑制に貢献する省エネルギー機器として、既に2015年度末で15万台程が家庭に設置されており、 2030年には500万台を超えるものと期待されている。