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JESAコラム 第86回


キャッシュレス決済の動向その1
政府のキャッシュレス・ビジョン

元東海大教授 片岡信弘

今回から何度かに分けて日本に於けるキャッシュレス決済の動向について解説します。
1.キャッシュレス・ビジョン
2018年4月に経済産業省が「キャッシュレス・ビジョン」を発表しています。
2015年時点での世界各国キャッシュレス決済の状況を見ますとキャッシュレス先進国では、40%~60%台であるのに対して日本は18.4%に留まっています。
そこで政府の方針として2025年までに40%程度キャッシュレス決済比率、将来的には世界最高水準の80%まで引き上げるとしています。このようなキャッシュレス決済推進の背景は次ものです。
①実店舗等の無人化省力化推進共に、日本国内で現金を扱うためのコストが年間7兆円程度ありこれを削減すること。
②不透明な現金資産の見える化、不透明な現金流通の抑止による税収向上につなげること。
③支払データのビッグデータとしての活用により消費動向の把握し、消費の利便性向上が消費の活性化につなげること。
④キャッシュレス決済は現金より利用時の心理的バリアが低いため消費の活性化につなげること。

一方、2019年10月の消費税の10%への引き上げによる消費の落ち込みをカバーする方策の一つとして、小規模商店等でキャッシュレス決済を行なった時は、2%~5%分のポイント還元を行なう方向で検討がなされています。
これは、消費の落ち込みをカバーと共にキャッシュレス決済の比率の少ない小規模商店を対像にキャッシュレス決済推進を行なうとの意図があります。

ここでいうキャッシュレス決済とは、個人によるモノやサービスの購入に対する決済、つまり事業者と消費者間の支払い(BtoC)、消費者間の支払い(CtoC)、消費者間と政府間の支払い(BtoG)を意味します。
また、決済手段としては、電子マネー、クレジットカード、デビッドカード、QRコードなどのモーバイルウォレットがあります。

2.各国の状況

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図1 各国のキャッシュレス決済比率

各国のキャッシュレス決済比率を図1に示します。最もキャッシュレス比率が高いのは、スウェーデンでその次が韓国、中国と続いています。これらの国のキャッシュレス推進状況を解説します。
(1)スウェーデン
バブル経済が 1990 年代初頭に崩壊し金融危機に陥ったことから、金融機関を中心に国家を挙げて生産性向上を目指したことがキャッシュレスの背景にあります。
このため、クレジットカードの普及推進に加えて、スマートフォン向けのアプリを使って決済する「Swish」が普及推進を行ないました。Swishは、国内の6つの銀行が共同で立ち上げたもので現在は、国民の半数が利用しています。
首都ストックホルムでは青空市場のようなところでも利用可能で、街中のカフェなどでは、現金お断りの店も多数存在します。教会も現金による寄付は1割に過ぎず、カードが利用可能です。
キャッシュレス化で現金を狙った強盗などの犯罪が大幅に減っているようです。こうしたなか紙幣クローナを発行しているスウェーデン中央銀行では新しい電子通貨の発行も検討しています。

(2)韓国
1997 年の東南アジア通貨危機の影響を受け、その打開策として実店舗等の脱税防止や消費活性化を目的に、政府主導によるクレジットカード利用促進策を実施しました。利用促進策としては次の対策を行なっています。
年間クレジットカード利用額の 20%の所得控除(上限30万円)、 宝くじの権利付与、店舗でのクレジットカード取扱義務付け等です。
また、硬貨の発行、流通、管理の社会経済的コスト削減に向けた電子マネーの活用を推進しています。このため、消費者が現金で買い物をした際のおつりを、直接その人のプリペイドカード等に入金し、つり銭が出ないようにする方策を実施しています。

(3)中国
中国では、偽札や脱税など現金の安全性課題が存在しました。このような中で、銀聯が、2002 年 3 月に中国国内の 80 強の金融機関によって共同で設立され、金融機関間の決済システムやルールの標準化、銀聯加盟の金融機関同士をオンラインで結ぶ決済オンラインネットワークの整備を行いました。
一方では、アリペイが登場しました。これは、元々は、アリババ(阿里巴巴)社が運営するオンラインモール「タオバオワン(淘宝网)」におけるオンラインショッピングに対する支払サービスとして誕生したものです。
現在、アリペイアプリの利用者は、タクシーやホテル予約、映画チケットの購入、公共料金の支払、病院の予約、振込みや資産運用商品の購入を一つのアプリから直接行うことが可能となっています。アリペイアプリは、内外の様々なサービスにつながる「生活アプリ」としての機能を 1 つのアプリで完結していることから「スーパーアプリ」と呼ばれるまでに浸透しています。

参考文献
経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」2018年4月
東京放送WBS 2017/1/5(木)放送「現金が消えた国」


2019/02/26