about

JESAコラム 第55回


市販されるようになった燃料電池自動車

元東京電機特別専任大学 西川尚男

自動車会社はこれまで環境にやさしい自動車を実現するためにハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料電池自動車(以下FCVとする)を開発してきた。ここではFCVについて現状を説明をする。

FCVは図1に示すように高圧タンクに貯蔵した水素を燃料電池へ供して電気を発生させ、それによってモーターを駆動して走る一種の電気自動車である。1980年から1990年代にかけてイオン電導の優れた固体高分子膜が開発され、それを適用した固体高分子形燃料電池の性能が高電流密度領域でも電圧特性が優れているとのデータが公表されて以来、世界の主力の自動車会社がこの固体高分子形燃料電池を自動車へ適用する研究開発を活発化させ、現在に至っている。

image
図1 燃料電池車のシステム例

我が国の自動車会社も同様に自動車用燃料電池の研究開発を開始し、国もその支援に乗り出した。その一つが2002年に開始されたFCVの実証試験である。このプロジェクトは①各種の化石燃料(天然ガス、プロパン、石油、メタノール)から水素を製造し、FCVへ供給する「水素ステーション」を設置し、水素供給設備の実証、運用を検証すること、②自動車会社が開発したFCVが公道を走行し、水素ステーションから水素供給を受け、各種の走行につき実証試験を行うことであった。その結果の一例が図2に示されるように、化石燃料から水素を製造し、燃料電池へ供給する場合(水素製造は化石燃料を水素に変換する水素ステーションでの効率を用いて原料から走行までの総合効率(Well to Wheel)で計算した結果が採用されている)でも、従来のガソリン車に対し、燃費効率が約2倍優れていることが実証された。またこの実証試験期間中にトヨタが開発した燃料電池自動車を用いて大阪から東京(約560km)まで走行し、一度も燃料を補給することなく完走したという実績を上げている。

image
図2 燃料電池自動車公道走行試験時の燃料比較

自動車会社は、これらの実証試験の経験をもとに、更に商品化に向けてFCVシステムの小型化、低コスト化、高信頼性に注力してきた。その結果トヨタが世界で初めて量産タイプのセダン型FCV「ミライ」(図3(a))を2014年に発売した。その内容は電池の出力:114kW, 700気圧の高圧タンク2個、1充填あたりの走行距離:650km、大きさ(全長*全幅*全高)4.89m*1.815m*1.535m、乗車定員:4名。一方ホンダは2016年クラリティ(図3(b))電気出力:114kW,タンク充填圧力:700気圧、走行距離:700km、大きさ(全長*全幅*全高)4.895m*1.875m*1.475m、乗車定員:5名。を発売した。今回の燃料電池自動車の市販開始は、着実に近づいている再生可能エネルギーで発電し、水電解により多量の水素を製造し、人為的に制御できる電力を発生、輸送などに利用する水素社会に向け、その第一歩を踏み出したものといえる。

image
図3 燃料電池自動車

次に電気自動車と燃料電池自動車の比較の概要を紹介する。走行距離当たりの車体重量比較を図4に示す。電気自動車は電池の重量当たりのエネルギー容量(Wh/kg)が小さいため、走行距離が制約される。また走行距離が250kmクラスの場合の、燃料供給時間の比較を表1に示す。電気自動車では、家庭用電源で充電する時は7時間、急速充電の場合、約25分かかるのに対し、FCVは5分で水素供給が可能である。一方燃料コストは表2に示すようにアメリカの例であるが、電気自動車の方が安い。また自動車本体価格も同様である。これらから当面電気自動車は通勤、都心を対象とし、一方FCVはガソリン車並みの走行ができ、長距離運転も可能であるが、水素ステーションの不足という制約は免れない。将来電気自動車へ搭載するバッテリーの開発が着実に進みエネルギー密度が向上していけば、長距離運転が可能となろう。

image
図4 走行距離あたりの車体重量

表1 燃料供給時間
image

表2 燃料コスト〔セント/km〕
image


2017/05/16